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「ゴドーを待ちながら」

 
第34回(平成26年度)
全国高校生読書体験記コンクール県入選
秋山祐衣さん(第一学院高等学校新潟キャンパス)

「ゴドーを待ちながら」を読むまでの私は、あらゆる道と方角を横断しながら進むことが人生、そして、多くの人々の歩み方だと思っていました。それをベースとした物語と登場人物が多い文芸、映画を鑑賞していた影響もあります。しかし、本書を読み終わる頃には、「人は歩いている“つもり”で、実際は立ち止まっているだけなのかもしれない」と新しい価値観を持つことができるようになりました。「誰もが、幸運や変化という“救世主”を待っていて、何か行動を起こしても、それは救世主が訪れるその瞬間を待っている“暇つぶし”にしか過ぎないのかもしれない」と思うようにもなりました。

第一学院高等学校新潟キャンパス

第一学院高等学校新潟キャンパス


本書の主人公であるエストラゴンとヴラジミールの浮浪者二人は、田舎道でひたすら“ゴドー”を待ち続けているのですが、結局ゴドーは一度も姿を現しません。それでも二人はずっとその場で待っているのです。「来ないのに待っている」のです。そもそも、”ゴトー“とは一体何なのか。その有力な解釈は、英語の「God:神」にフランス語の愛称的な表現である「-od」をつけて、「Godod:ゴドー」としたのではないか、とされているようです。これに沿えれば、「神(ゴドー)を待ちながら」という主題になります。「神」これは、物質的なモノ、手で感触がつかめるような五感から感じられるような範疇にはない、とても個人的な精神と思想の深い部分に存在していると思います。そのぶん、読者は自分の価値観や独自の分析点を自由に所有できるため、登場人物台詞や背景について様々な角度で見つめることができる面白さがありました。それと同時に「神(ゴドー)を待ちながら」の全体像が、物理的な理論や理屈で繕えるような合理性がない、何かに触れたときの感触、空気感、そうした一瞬で感じられる感覚を半永久的に(書物のなかで)持続させようとする不合理なものであることがわかってきます。


ヴラジミールが「.・・・われわれは別に聖人でもなんでもない、しかし待ち合わせの約束は守っているんだ。いったい、そう言いきれる人がどれくらいいるだろうか?」と言った台詞は印象的です。“特別な才能もなく、これと言った秀逸な性質がないとしても、守るべきこと(約束)は守っているか?”私自身はどうだろうか・・・と考えたとき、「学校の課題や与えられる問題は提出期限を守って取り組んでいるから、守るべき部分は守られているだろう」と一瞬思いながら、も一度台詞を読み返してみると、「・・・そう言いきれる」と言う言葉に引っかかりました。私が守れているのは、時間と日にちだけで、その課題で得た知恵を思考回路の一つとして保全できなくては、真の意味で“守っている”とは言いきれないなと思ったのです。ただ機械的に課題をやるのではなく、一つ一つのテーマを擬議して、何らかの答えを見つける思考力、それを他分野でも活かせる応用力を身につけることができるようになろう。それができたとき、私は初めて台詞に首肯できるのだと感じました。そしてもう一つ心に留まった台詞あります。


エストラゴン「じたばたしてもむだだ。」


ヴラジミール「人間、変われるもんじゃない・。」


エストラゴン「苦しんじゃ損だ。」


ヴラジミール「しんは結局同じだから。」


(ここで言う「しん」とは、このときにエストラゴンがかじっている人参の「芯」と人間の根本的な「心」をかけたいと思われる)人参にしても、育った環境、実の大きさ、甘さ、香りなど、各々で違いはあるけれど、人参そのものであることに変わりはない。それは人間も同じだ、という言葉に聞こえました。「じたばたしてもむだだ」私自身を何かと比較してばかりいた自分に諭された気がしました。「変われるもんじゃない」不足は補填できても、違いはできない。「苦しんじゃ損だ」肩の力を抜いて、自分がやれることをやっていこう、こんな風に前向きに考えることができた台詞でした。


ヴラジミール「それより、あした首をつろう。(間)ゴドーが来れば別だが。」


エストラゴン「もし来たら?」


ヴラジミール「わたしたちは救われる。」


誰もが“ゴドー”のような救いを待って“暇つぶし”をして生きているかもしれない。


エストラゴン「もう行こう。」


ヴラジミール「だめだよ。」


エストラゴン「なぜさ?」


ヴラジミール「ゴドーを待つんだ。」


エストラゴン「ああそうか。」・・・こうして「来ないのに待っている」それは「死ぬと知っているのに生きている」人間の矛盾そのものかもしれない。


ヴラジミール「じゃあ、行くか?」


エストラゴン「ああ、行こう。」


二人は動かない。
-幕-

 

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