便箋の魔法

 

第42回(令和4年度)
全国高校生読書体験記コンクール県入選
Pham Anh Thuさん(新潟県立新潟高等学校)


(取り上げた書名:『水曜日の手紙』/著者名:森沢明夫/出版社名:KADOKAWA)

 夏休み、宿題、読書感想文。誰もが一度は通る道。そんなことを考えながら私は本屋を見渡した。本棚を散策していると一つの単語が目に入り、足を止めた。「手紙」という二文字。私の名前はベトナム語で手紙を意味している。昔、両親がお互い離れたところにいても文通をしていたことからそう名付けられた。だからなのか、自然とその単語に引き寄せられてしまう。本屋をもう一周りした後、私はその本を手に取った。
 「水曜日郵便局」。それは、水曜日の出来事を綴った手紙を送ると見知らぬ誰かの水曜日が届くというものである。自分の夢を叶えたという空想の水曜日を書く直美は今の自分を変えようと思っていた。自分の水曜日を嘘偽りなく書く洋輝は自分の夢から逃げないことを決心した。そして、二通の手紙をつなげた水曜日郵便局員の建二郎は男手一つで娘を育てている。その二通の手紙がそれぞれの未来だけではなく、かかわった人々の未来までもを変えていった。
 私が感動したのは見知らぬ誰かの手紙が見知らぬ誰かの未来を変えたという点だ。身近な人々の言葉に刺激を受け、手紙を通して運ばれたその言葉がまた見知らぬ誰かを変える。なんて幸せな言葉のループなのだろう。近年ではインターネットの普及で赤の他人とつながる機会が増えた。私はその出会いが危険ではなく、奇跡であることを願っている。
 私は手紙を書いたことがたくさんある。転校が多かったことはその理由の一つである。しかしそれ以上に、誕生日などの記念日に両親へ手紙を書くことが何回もある。両親へのプレゼントは値の張るものが多く、金銭面から考えると最終的に手紙になってしまう。手紙の内容はもちろんお祝いの言葉と日頃の感謝を伝えている。でも、私は思春期真っただ中の高校生である。日々親に感謝しているわけではなく、どちらかというと苛立ってしまうことのほうが多い。本当は「同じことを何回も言うな」とか「子どものことを分かってますアピールするな」とかよく思っている。しかし、どうしてなのだろうか。白紙の便箋を目の前にすると感謝の思いが込み上がってくる。良い子ぶって嘘を書いているのではない。白紙の便箋を目の前にあれこれ悩んでいると、最終的には普段は言えないようなことが浮かんでくる。そして、書き始めると苛立ちは落ち着き、伝えたいことがどんどん溢れだしていくのだ。夢中になって書き終えると晴れやかな気持ちになり、また自分も頑張ろうと思える。
 だから、私は手紙が好きだ。手紙を読むことも書くことも両方好きである。読めば、相手の言葉から影響を受け、自分を変えるチャンスになる。書けば、相手を喜ばせ、自分も前を向くことができる。
 小学校の先生が教えてくれたことを今でも覚えている。
「言葉というのは言うよりも紙に書くほうが相手に伝わり、相手の心に残りやすい。どんな言葉を使うのかはその人次第だ。」
私は手紙に書けるような言葉を日々使いたいと思う。手紙を書くときのように相手のことを思って常に穏やかで優しい心でありたい。言葉を口にするときはその言葉を手紙に書いて渡せるかどうか立ち止まって考えたい。失敗することもあるが、きっとそれがこれからの自分につながっていくのだろう。
 最後に私がこの本から学んだ人が幸せになるための三つの法則を伝えたいと思う。心を掴まれた人はぜひ他の人にも伝えてもらいたい。
・自分の心に嘘をつかない
・よかれと思うことはどんどんやる
・他人を喜ばせて自分も喜ぶ
ありきたりな言葉だが、これが手紙にかかわった人々の未来を変えた言葉である。私もそんな言葉を身近な人だけでなく、見知らぬ誰かに伝えられるような人になりたい。

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