向き合う勇気
第45回(令和7年度)
全国高校生読書体験記コンクール入賞
大野 真由子さん(新潟高等学校)
(取り上げた書名:『カラフル』/著者名:森 絵都/出版社名:文芸春秋)
読了後、心臓が潰されたような幻覚に襲われた。心臓が存在するであろう場所に鍾が吊るされたような、息をすることも難しくなるような感覚だった。物語はハッピーエンドだが、不思議なことに切ないラストを迎える小説を読んでいるときと同じ痛みがした。なぜそうなるのかずっと考えながら再読しても原因をすぐには見つけられなかった。だが、これを書くにあたって頭の中を整理すると理由らしきものの正体が徐々に見えてきた。
この本のいたる所で私の心の中にずっと渦巻いている、言葉で表すことが難しかったモヤが、丁寧に描かれていた。自分の気持ちや意思が固まりきっておらず、進路や学校のことなど、四六時中何かを迷い、悩んでいる自分への不安。それを解消したいと思い、MBTIや占い等の性格診断を受けてみるも、未だに自分を掴んだ実感がないことへの焦燥感。同級生の何気ない行動に傷つき、人間が怖くなってしまった時期。今思えば、相手を傷つけてしまったのではないかと後悔してしまう過去の行動。登場人物と私の体験が重なり、鮮明に思い出されるシーンが多かった。
「カラフル」は生前に罪を犯した「ぼく」の魂が、自殺した中学生の体にホームステイする期間内に自分の犯した罪について思い出すことを目標に、人生を再挑戦する物語である。主人公はホームステイを快適にするため、中学生の周りの環境を変えていこうと奮闘する。特に胸に秘めていた本音をはっきりとぶつけるシーンが爽快で、印象的だった。私は今まで本音をストレートに言うことはろくなことにならないと思っていた。何を言っても状況がすぐに変わるわけではないのだから無駄だ、相手に本心を知られて恥ずかしくなるだけだという考えだったからだ。しかし、物語はその場面をきっかけに好転していく。
ステイ先の中学生が自殺に至った原因の一つは、他人を一部しか見ずに、その姿が全てだと思い込み、勝手に疑心暗鬼になっていたことだった。ぼくもそれに囚われていたが、自分から本音を曝け出したことで、相手もぼくに心の中を見せてくれるようになっていったのだった。自分の訴えは声に出さないと伝わらない。また、他人の腹の内なんて口に出していることしか分かりようがないのだから決めつけてはいけない。この当たり前を実践することが容易でないから、生きづらさを感じてしまっているのではないか。
二〇二四年、小中高生の自殺者数が過去最多となったそうだ。死にたい、と思うときは誰にも打ち明けられない悩みやそもそも打ち明ける場所がないなどと事情があるだろう。また、もし話したら、自分が一番理解している、痛いところを突かれてしまうのではという恐れや、関係のない人まで巻き込んで迷惑をかけてしまうのではという怖さもあるだろう。けれども、この物語のように、どこかに正直な思いをぶつけることで、少しは状況が変わっていくかもしれない。
普通とは何か、という問い。自殺をしてもいいことなんてない、というメッセージ。取り返しのつかないことや自分の傷、他人につけてしまった傷から目を逸らさないことの大切さ。自己理解の難しさ、また他人を知ろうと歩み寄ることの重要性。たくさんの要素が、たった二四五ページに詰め込まれていた。それらに共通しているもの、この本が伝えたかったことは何か。考えたところ、「勇気」なのではないかと思われた。ありのままの自分を見つめること。一生関わりたくないと思ってしまう苦手な人間を正面から見つめること。これらは簡単にできることではないが、登場人物たちは勇気を出し、暗かった現状を打破した。対照的に自分は頭の中で考えているだけで何も行動に移していない。その姿が物語の前半でキャラクターと重なったからこそ、後半、主人公たちが前に進んでいる様子が眩しかった。どうしても自分と比べてしまい、辛い気持ちが湧き出ていたのだ。
自分に正直に生きる勇気。嫌なことはやめてほしいときっぱり伝える勇気。間違っていたことを認め、素直に謝る勇気。悔しいことにも対峙する勇気。心にあるモヤは、勇気さえあればすっきり晴れるのではないかと思うくらい、私には「向き合う勇気」がないのだ。他人に対しても自分に対しても弱さや欠点を受け入れること、チャレンジしたいことがあったら一歩踏み出すこと。いつかこの本を読んでも苦しくならない日が訪れることを願って小さなことでも真正面から向き合って生きてゆきたい。