[第64話]商いは誠意ある人付き合い 家訓に見る新潟商人の神髄
江戸時代には、武士だけではなく、商人も家訓を残しています。中でも、三井家の『宗竺遺書』は有名ですが、新潟浜村(現在の新潟市)の商人にも、家訓を残していた家があります。
港町・商業の町として発展した新潟浜村の片桐家は大助買(魚問屋)で、店は本町通十四軒町西側(現在の本町通十一番町西側)にありました。大助買は、新潟や近辺から魚が持ち込まれると、競りにかけたり、自分の店で売ったりしていました。魚が多いときは、干物にして販売しました。また、魚を持ち込む漁師たちの宿にもなりました。
天保元年(1830)に、片桐家の七代目が子孫のために書き残したものがあります。それが、「七代三九郎遺書之事」です。この遺書は、最初に六代三九郎の遺言を載せ、つぎに各月ごとの家業の仕来り、守るべきこと、最後に人として気をつけなければならないことを記しています。この中の六代三九郎の遺言をみてみましょう。
全部で八か条で、大意は次のとおりです。
① 毎年一回、帳面を見て全てを理解すること。
② 商売は重要だと理解すること。
③ お客様を大切にし、全てを理解すること。
④ お客様から頼まれたことは誠実に行うこと。
⑤ 旦那寺を大切にし、分相応に奉加等を行うこと。
⑥ 藩のきまりを守り、下級役人にも礼を失しないこと。
⑦ 諸親類とはいつまでも変わらずに付き合い続けること。
⑧ 過去帳を調べ、法事などは忘れずに行うこと。
これを読むと、片桐家が誠意をもってお客に接していたことが分かります。そして、商人としての心構えを子孫に伝え、商売が繁昌し、家が末代まで続くことを望んでいたのです。これは、他の新潟商人も同様と考えてよいと思います。
現代の日本企業に対する信頼性の高さは、この事例のように、江戸時代以来、それぞれの地域の商人たちが受け継いできた心構えが大きく影響しているのかもしれません。
【「七代三九郎遺書之事」】(請求記号E1015-7)
【「七代三九郎遺書之事」】(請求記号E1015-7)