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「空は、今日も、青い」

 
第30回(平成22年度)
全国高校生読書体験記コンクール優良賞
酒井瑞姫さん(新潟県立新潟高等学校)

携帯電話に残っていた、友人からのメール。 “中学・高校での勝負は負けたけど、大学での勝負は負けない!!お互い頑張ろう。” 三月十四日、深夜に届いたメッセージ。なぜだか、私を息苦しくした。

新潟県立新潟高等学校

新潟県立新潟高等学校


覚えてる。四ヶ月ほど前の自分は、閉じそうな瞼をなんとか開きながら、返信した。 “私だって負けないよ。”


同じ高校を目指して毎日顔を合わせ共に勉強に励んだ仲間。違うところはどこにもなかったのに、どうして数枚の紙切れで勝負が決まってしまうのだろう。―そう思っていた。


今は、そんな考えを持っていた自分が恥ずかしい。


“勝ち組負け組と簡単に人をふたつに分けて、浅いところでわかった顔をする時代になってしまった。” なにげなく本の最初のページをめくって、飛び出してきたこの言葉。衝撃をうけた。


そうなのだ。私は、友人のことを “かわいそう” と同情したのだ。高校なんて人生の中の一瞬に過ぎなくて、十五歳の努力で高校受験の合否で、これからの人生すべて決まるわけじゃない。なのに、運よく進学校に入学出来ただけで、友人に対して優越感をもった。誇らしかった。 “勝った” と思った・・・。


結局自分は、目に見える結果だけで、こころの中で勝ち負けを決めていたのだ。そんな、浅くて格好悪いことを考えていたのだ。それに気付いて恥ずかしくなり、慌てて削除ボタンを押した。メールは消えたけれど、息苦しさは消えない。どうすればいいんだろう・・・なんだか情けなくなって、本の続きを読んだ。


“生きることの味わいは、勝ち負けなどよりずっと多彩で、目がくらむほど深い。” まだ十五年と少ししか生きていないけれど、この文の意味くらいは分かる。あたりまえなことだけど、諭されたような気分だった。まだ自分は生きることで深まる味わいを得ていないんだと、強く感じた。


“未来は誰にも予想できない。ぼくたちは今をいきいきと生きること以外なにもできないのだ。自分のいる場所でベストを尽くし、大切ななにかを守る。ぼくたちは勝ち組でも負け組でもなく、ひとりだけで一度きりの人生を送るのだ。” 後悔と希望。二つの気持ちが交錯した。このことにさえ気付かなかった自分はなんだったのだろう。今までの考えをやめよう。これから、ほんとうの一度だけのかけがえのない人生を送ろう。そうやって生きよう。そう思った。


--きみのことはよく知らないし、無責任にきこえるかもしれないけど、きっと明日はなんとかなる。だれもがそうやって生きてきたのだ。きっと、だいじょうぶ。きみの幸運を祈る。


--本を読み終え、あとがきに書かれている、自分の中に仕舞っておきたいようなことば。こころに残った。自分はそういう、背中を押してくれるような力づよい応援が欲しかったんだ、と気付いた。


息苦しさはもう消えていた。本から目を離し、ふと空を見上げる。空は、今日も、青い。


これから先、生きていれば、いろんなことがあるだろう。焦りやもどかしさでこころがいっぱいになって、泣きそうな夜も。なにもかも忘れてただただ部活に打ち込むときも。ともだちや家族と過ごすしあわせな時間も。一瞬がいっぱい積み重なって、たくさんのトキを生きる。


将来のゆめなんて今更語るのは恥ずかしくて、未来はあまりみえなくて。まっすぐな道や、はなまるがつくような正解はないのかも知れない。今は快晴な空だって、雨が降り風が吹き、時には雷だって鳴ることがある。遠回りしたり戻ったりとまどったり、してしまうだろう。


けれど、もう迷わない。一瞬一瞬を精一杯生きる。ダレカと比べて競うのはもう終わり。自分だけの居場所。自分だけの価値。自分だけの人生。それをみつけようとしよう。大切ななにかをみつけるために、守るために。


綺麗ごとのように聞こえるかも知れないけれど、わたしがほんとうに感じたこと。幼いころから本がすきで、何百何千と読んできた。ただの言葉の羅列に過ぎないはずなのに、いつもこころを動かされる。こんなに感動するのは稀だけど。それに、こんなに混沌とした淀んでいそうな世界で、せめて言葉や想いだけでも綺麗でありたいとおもう。それは、つまらない自己満足だろうか。


“今を生きる”-アタリマエダケド、タイセツナコト。この本は石田衣良は、それを教えてくれた。


窓から光が差し込んで、本がかがやいてみえる。いつか、こんなふうにかがやきたい。柄にもなくそんな願いを込めて、本を閉じた。

 

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