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「今しかできないこと」

 
第31回(平成23年度)
全国高校生読書体験記コンクール入選
津吉理恵子さん(新潟県立新潟高等学校)

結果だけが演奏の価値を決めるものではない。私は充分このことをわかっているつもりでいた。だが、この「楽隊のうさぎ」という本を読んで、主人公たちが部活を通して成長していく姿で、改めてそのことについて理解を深め、考えることができた。

新潟県立新潟高等学校

新潟県立新潟高等学校


「負け惜しみと思われてもいいけど、もうこれから、絶対にこういう音は作れないと俺は思うんだ。うまい演奏とか深い演奏はこれからもできるけど、こんな真剣な音はきっとこれが最後だと。悪いな。変なこと言って」これは、コンクールの後、主人公の中学一年生である克久が所属する吹奏楽部の部長の有木が涙ながらに言った言葉である。この年、「関東大会銀賞」という結果でひと夏を終えたこの吹奏楽部は、毎年、全国大会に出ている常連校であった。だから、克久たちにとってこの結果は決して満足いくものではなかった。


では、なぜ有木の口から「悔しい」というような言葉が出てこなかったのか。それは、最初にも言った「結果だけが演奏の価値を決めるものではない」ということを、有木は普段の練習や本番の演奏を通して、よく感じていたからだと思う。


私も、中学から吹奏楽を始め、これまでに何回もコンクールに出場してきた。コンクールに出るからには、演奏に点数がついてしまう。だから、どんなに自分で納得のいく演奏をしても、審査員には届かず、納得できない結果に終わることももちろんある。私も、何度かそういう経験をしたことがある。そういうとき真っ先に「悔しい。もう一回やり直したい」と思った自分が、なんとなく今は情けなく思える。


音楽というのは、一期一会の出会いで成り立っている。だから、全く同じように再現することは不可能である。終わったらそれで消えてしまうものである。また、演奏は、そのときの演奏者の心の持ち方によって大きく変わってしまうものだし、緊張して間違ってしまったとしても、それも含めて「一度きりの音楽」なのである。だから、有木は本番の演奏を「こんな真剣な音」と表現したのだと思う。きっと、「聴いている人々に自分たちのつくり上げた音楽を聴いて欲しい」一心の演奏だったと思う。克久や有木たちは、実際、コンクール本番のために、「目がさめるとブラス。夜寝るまでブラス。休み時間もブラス。」という本の中での表現のように、努力を惜しまず練習してきたのだ。色々技術的に欠点があったにしろ、真剣につくり上げた演奏を恥じることはあってはならない。

なのに私は、「もう一回やり直したい」と思うことで、本番の自分たちの真剣な演奏を否定してしまっていたのである。また、他の団体の演奏を聴いているときに、自分たちより上手い、下手だ、などと、技術的なことばかりにとらわれていた。どの団体も、つらい練習を乗り越えて本番に臨んでいるのだから、演奏を聴くときには、技術的なところにこだわるのも、それがコンクールであるが、これからはもっとひとつひとつの「真剣な音」に耳を傾けていきたいと思った。それでこそ、結果にとらわれない、音楽の本当の「価値」が見えてくるのではないかと思う。

また、夏のコンクールを「関東大会銀賞」という結果に終わった年から一年後、克久たちは、今度は全国大会まで進んだ。去年、一年生の頃は、練習で有木たち先輩から「真剣さが足りない」などと言われていた克久たちであったが、全国大会での演奏の直後のシーンでは、「昨年の秋、有木が『今じゃなければできない演奏がある』といった言葉の意味を、克久は温かな生き物の身体を抱き締めるように解った。」と表現されている。このことから、克久たちはこの一年で「今でなければできない」練習をたくさん積み、たくさん成長してきたことを感じることができた。私は、この「今でなければできないことをする大切さ」というのが、この本の一番の主題ではないかな、とこの部分を読んで思った。

この本を通して、私も「今でなければできない」ことを精一杯やる大切さに気付くことができた。勉強、部活、趣味など、今しかできないことはたくさんある。とりわけ、部活は本当に高校生である今しかできないことだ。

私は今せっかく吹奏楽部に入っているので、結果ばかりにとらわれずに、「今しかできない」演奏をできるように、何事にも、積極的に取り組んでいきたいと思う。

 

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