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「小説少女」

 
第31回(平成23年度)
全国高校生読書体験記コンクール入選
野沢奈津子さん(新潟県立五泉高等学校)

ぺラー、パサッ。
誰も居ない静かな部屋で、新鮮な空気を吸いながら本を読んでいる少女がいる。

新潟県立五泉高等学校

新潟県立五泉高等学校


私は本の虫、小説少女。毎日本を舐めるように読んでいる少女だ。少女はなぜこんなにも本を愛してしまうのだろうか。それには理由が、いや、御恩があるからなのだ。では、小説少女と、ある一冊の本との出逢いの話をしよう。


少女は小学六年生までは、いっさい本に手を伸ばしたことなどなかった。本というと堅苦しいイメージで、大嫌いだった。


中学進学と共に、新しい生活、新しい友達になかなか馴染むことができず、いつも孤独でいた。「こんな生活、つまらない。もう嫌だ。」少女は己を失ってしまった。何のために生きているのだろうか。何のために学校へ来ているのだろうか。不思議でたまらなかった。


そんな頃、ふと校内の図書館を訪れた。授業では何回か訪れたものの、自ら進んで行ったことはなかった。


図書館に入ると、まるで今まで入ったことのない未知の世界が広がっていた。少女は、ふらふらと散策し、一番手前の本棚へ行った。(こんなの読んで、何が楽しいのだ。)そう思いながら、一冊の本を棚から抜き出し、開いてみた。案の定、少女にとって知らない言葉と漢字が並んだ、ただの暗号文にすぎなかった。ぺらぺらと数ページめくっていると、ふと気になる一文が目に留まった。『未知の調べを耳にするために』少女はこの一文から目が離せなくなった。この小説の主人公は何を求めて生きているのだろうか。どんな人物で、どんな生涯を送ったのだろうか。少女は暗号解読を決意し、見習い期間がスタートした。


初めは悪戦苦闘し、今思うと、とても辛い期間だった。しかし、読み進めていくうちに少女は主人公と自分を重ね合わせるようになった。自分も主人公のように強い心を持ち、力強く生きたいと。


それ以来、少女は少しずつ本を手に取るようになり、図書館へも毎日行くようになった。少女はファンタジーが大好きだ。いつも読書スペースの一番隅の席で靴を脱ぎ読んでいる。「あら、また靴を脱いじゃって。今日は何を読んでいるの。」既に顔馴染みになり、少女のくつろぎのための癖を見つけた司書さんは、いつも話かけてくれる。話かけられる度に、感想を語った。単純な繰り返しだったが、少女にとって、とても大切な時間だった。


中学三年生の時だっただろうか。少女に読書友達ができた。「今日も行くよね。」「うん。もちろん。」いつも会話をしながら図書館へと向かうようになった。「今日は何を読もうかな。」「私はいつもと同じ野球の本。」少女と友達はまったくと言っていいほど、趣味も好みも違う。しかし、いつもの場所で一人で読むよりも、一緒に読みながら時々目を合わせて語り合う方が、何十倍も何百倍も何千倍も楽しいことだと知った。


中学卒業間近、春の閉館期間に入る前日、図書館を訪れた。蔵書点検前であり、ほとんどの本が返却され、棚から漏れ出していた。最後ということで、少女はあの本と出逢った場所へ行った。(懐かしいな。)少女はその本を手に取り、強く胸に抱きしめた。上橋菜穂子作『獣の奏者』。己を失ってしまった少女に己を与え、勇気を与え、生きる力をも与えてくれた本。そして、何よりもかけがえのない時間を作ってくれて、少女を未知の世界へと連れて行き、新しい出逢いをくれた。


私は本に救われた小説少女。これからもずっと感謝の気持ちを持ちながら、本を愛し、読み続けたい。


主人公の思いを知りたくて、読者と作者の狭間にある深い淵の縁に立ち、言葉の弦を一本一本はじいて意味を確かめるかのように、作者に語りかけてきた。作者もまた、言葉の弦を一本一本はじくようにして、私に語りかけていた。深い淵をはさみ、わからぬ互いの心を探りながら。ときにはくいちがう木霊のように不協和音を奏でながら。それでも、ずっと奏で合ってきた言葉は、こんなふうに、思いがけぬ時に、思いがけぬ調べを聞かせてくれる。小説少女であるかぎり、私は深い淵の岸辺に立って、言葉を聞き続けよう。架空と現実に満ちる作者に向かって、一本一本弦をはじき、語りかけていこう。
『未知の調べを耳にするために』

 

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