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「私を救ってくれたもの」

 
第34回(平成26年度)
全国高校生読書体験記コンクール県優秀賞
矢田奈央さん(第一学院高等学校新潟キャンパス)

私たちはきっと、周りの人たちに支えられて生きている。どこかで見守っていてくれる人がいるからこそ、今私はここにいる。私は毎日届く手紙と待っていてくれる人たちの笑顔に救われた。そしてこれからも、その笑顔を忘れずに強く強く生きていく。

第一学院高等学校新潟キャンパス

第一学院高等学校新潟キャンパス


小学生のときから私は学校に行けないことが多く、行ったり行かなかったりを長い間繰り返していた。環境を変えるために転校したこともあったが、どうしても毎日通い続けることができなかった。学校に行けなかった理由は今でもよく分からない。友達とうまくいってなかったわけでもないし、学習の面で不安があったわけでもない。理由が分らないとなると問題を解決するのは難しかったし、私自身も戸惑いながら何年も生活していた。でも、転校して学校が変わってから、休んだ日の私の家にはクラスのみんなからの手紙が届くようになった。何人ものクラスメイトからのメッセージ。行けない日、ずっと落ち込んでいた私にとって、それが一日の中の唯一の楽しみであったとも言える。


友だちはほぼ毎日手紙を届けにきてくれた。その手紙はすべてとって置いてある。箱がいっぱいになる量だ。「ずっと待ってるよ」この言葉に励まされて、私は少しずつ学校に通えるようになった。それからは、学校に行けなくて自分が嫌になり、何を信じたらいいのかさえ分らなくなったとき、その言葉だけが救いであり、信じられるものになる。「つきのふね」の中でも、手紙で救われた人がいる。プロのチェリストを目指す露木さんは小学校二年生のとき誰とも口をきかなくなって部屋に閉じこもってしまう。そんなとき、ほとんど喋ったことのないクラスメイトから突然届いた一通の手紙。彼はそれを読んで、「良くなりたい」と思ったのだと語った。これを読んだ瞬間「ああ、同じだ。」と思った。自分を気にかけてくれている人がいると分れば、落ち込んで苦しい気持ちは随分と楽になる。待っていてくれる人がいる、一人じゃない、そう分っただけで私は良かった。


「つきのふね」を読むまで私はもらった手紙のこと、それに救われたことを忘れていた。もしかしたら学校に行けなかったときのことを思い出したくなかったのかもしれない。そのときすごく辛くて、自分のことが嫌で嫌で仕方がなかった、ということは覚えていたからこそ、思い出すのが怖かったのだと思う。でも「つきのふね」を読み終えた後、思い出した辛かった時期のことは、今の私にとってそれほど嫌な思い出ではなかった。失ったものもあったが得たものの方が大きい、ということを気づかせてくれたからだ。自分の心と向き合う時間が増えたことで、やりたいことを見つけられた。環境が変ったことで新しい友だちに出会えて、安心できる場所を得ることができた。これ以上何があるだろう。今の私には、これ以上のものはない。


そうは言ってみたものの、心に余裕がなくなったとき考えてしまうことがある。「私自身やあのときの決断が違っていたら、今何かが変わっていただろうか」と。


でも、私がそんなことを考えていたある日、友だちは言ったのだ。「いろんなことがあったけど、後悔だけは絶対にしないよ」と。


自分だけが大変なわけではない。それは分かっていた。私は私であり、それは何があっても変わらないし、もしも昔に戻れたとしてそのときの決断を変えることは私にはできないだろう。それならば、前を向いて目標に向かっていくことが今の私にできることだ。私のもともとの性格からしてそれがとても難しいことだということも理解している。でも、先に進むための努力はしたいと思った。「人より壊れやすい心に生まれついた人間は、それでも生きていくだけの強さも同時に生まれもっている。」


これは、露木さんが友だちの智さんの強さを信じて綴った言葉だ。この言葉のように、私は精神的に落ち込んだ時期を乗り越えて今ここにいる。何度も何度も乗り越えようと頑張ってきた。でも、それは私だけの力ではない。周りの人の優しさ、それが私にとっての勇気へと変わる。私が生まれもってきたものは、出会うべくして出会ったすべての人たちに少しずつ強さをもらえること。それは、とても幸せなことなのだと気がついた。みんながみんな、こんなにもたくさんの優しさに出会えるものではないからだ。


これから先、また何かがあって自分を嫌だと思う日が来てしまったとしても、ほんの少しでも周りの声に耳を傾ける力が残っていたなら、私はまた何度でも立ち直ることができるだろう。かけがえのない人たちに出会えたのだから。そしてこれからは私が誰かに声をかけて、立ち直るのを待つ番だ。心からの言葉なら必ず伝わるから、ゆっくり待てばいい。みんなが私を待っていてくれたように。

 

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