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「旅の優しさ」

 
第35回(平成27年度)
全国高校生読書体験記コンクール県優良賞
猪俣天心さん(新潟県立高田北城高等学校)

私は最近、自分がとても小さい人間であることに気付いた。学校に行くのが嫌だと言って仮病を使ったり、宿題をするのがめんどうだと言って後回しにして遅れて提出したり、友達が待ち合わせに遅れると怒ったりする私。どれも情けなかった。そんな自分に嫌気が差し、もっと良い人間になりたいと思った。変わるきっかけを探しているところに、何となく寄った本屋で「僕が旅に出る理由」という本を見つけた。この本には旅に出た大学生百人の旅行体験記が書かれている。

新潟県立高田北城高等学校

新潟県立高田北城高等学校


その中に、ウガンダへ行った大学生が、一人の痩せこけた少女に出会った話があった。少女は食料に困っているにも関わらず、大学生に一つの飴玉をあげたのだ。ウガンダでは、お金でも物でも人より多く持っている者が持っていない者に分け与えるのが常識であり、伝統であるらしかった。これを読んだ私は、以前の私が恥ずかしくて仕方がなくなった。この少女は貧困で今を生きるのも大変だというのに、全く見ず知らずの人間に数少ない食糧を分け与えたのだ。私ならば、クラスメイトにシャープペンシル一本をあげるのにもためらうだろう。この本には、「貧困な人々は自分の物を他人に譲るということは決してしないだろうと勝手に決めつけていたが、それは、豊かな国に住み、他人を思いやる心を忘れた我々のほうであった」と表記されている。私も同じように考えていた。私だったら、クラスメイトに消しごむをあげるのでさえも少しためらうだろう。そしてこれは、日本の大抵の人に当てはまるだろう。


私の母は外国人である。小学生であったころ、夏休みに、家族で母の実家へ帰省した。初めて実家へ行ったとき、従兄弟は、新戚とはいえ、初対面の私に優しく接してくれた。日本で初対面の人に優しくしてもらったことは無い。大抵の人は私の顔を見るなり、勝手に怖い人だと思い込み、私を無視するのだ。しかし、従兄弟は違った。周りの人々の外国語の会話を、私にわかるようにジェスチャーを使いながら、一つ一つ教えてくれたり、一緒に町へ遊びに連れて行ったりもしてくれた。私はこの本を読み、従兄弟たちの事を思い出した。高校生になり、人の優しさを忘れていた私は、思わず泣いてしまった。私の人生経験が浅いからかもしれないが、私の周りには、従兄弟ほど優しい人はいない。現代の日本は他人を嘲笑ったり、陥れたり、生きるのに疲れて自から命を絶ったりする人が多い。海外から見ると日本は平和で素敵かもしれないが、私はそうは思わない。喧嘩や殺人が他国に比べて少ないとしても、精神的な負担が大きくて自ら命を絶つ人が多いようでは、住みやすい国とはいえない。日本人が同族で敵対し合うのは、優しさが足らず、偏見が強いからだと私は思う。同じ国に生まれたのだから、もっとお互いに協調すべきであるのに。私は、この本を読む前、この本の大学生と同じように、貧困で困っている人達は、自分の物を決っして他人に分け与えることはないだろうと思い込んでいた。しかし、この本に出会ったことで、物事を勝手な思い込みで判断するのは、よくないことだと気付いた。学校に行くのが嫌で仮病したのも、自分の意思が弱く、学校が自分にとって嫌な場所でしかないと思い込んでいたからである。しかし、よく考えてみれば、自分にとって得することが多いし、苦手なあの人も本当は良い人なのかもしれない。この本に出会ってからというもの、このようなことばかり考えている。すこし前までには、あり得ないことだった。


他人が体験した旅であっても、その事実が私の考えを変えてくれた。最近は、忙しくて小学生の頃と比べて本を読む機会が減ってしまった。しかし、この本を読んで、もっと他の本を読んでもっとこれから旅をしたいと思った。


以前、勉強を頑張ることぐらいしか目標が無かったが、今では大人になって旅をし、いろいろな国の人々の優しさに触れたいという目標ができた。そのために、今できることを精一杯努力して、今僕の周りにある優しさを大切に育てていきたいと思う。この本は、私を変えてくれた。仮病をするような小さな私を、夢で満ちあふれている私に。私も旅をして、いろいろな人に私の旅を伝えていきたい。

 

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