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[第74話]山へ走れ-はがきから読み解く”K”の悩み-

皆さんのお宅に、大切に残されている手紙はありますか

 家族や信頼する友人に宛てた手紙には、嘘偽りのない本音が書かれ、その時代に生きた人々の生活の様子や悩み、社会情勢などを伝えてくれます。

 大正8年(1919)に長岡中学校に寄宿していた平賀氏へ、上京している受験生“K”氏から送られた3通のはがきをご紹介します。

 大正835日(写真①)に送られたはがきには、無事に東京に着いたこと、そして「東京は瓦斯(がす)の光(ばかり)である(中略)僕は(これ)から現実と妥協すべく(おおい)にやる心算である」と、新たな地での意気込みを感じさせる文が書かれています。
 その後、319日(写真②)に送られたはがきを見てみると、若干の疲れが見られます。「平賀兄よ、—書き来て涙ぐましい心になった。実在、鈍き色に包まれたる実在は、(なお)玲瓏(れいろう)瞑想(めいそう)を汚しては汚す。(中略)山へ走れ―(その)(ところ)にこそ安住の地があろう」。上京してから1週間あまりですが、思い描いていたことと現実とのギャップに思い悩んでいるような文面です。
 3通目のはがき(写真③)では、安住の地はやはり山だ、と平賀氏を山へ誘う言葉とともに、「僕ハ懐シイ舎ヲ忘レル(れる)(こと)ガ出来ヌ」と書かれ、ホームシックに陥っている様子です。平賀氏は他の人との手紙でも山に言及したものがあり、両者とも山が好きという共通点があったのでしょうか。
 この3通のはがきからは、受験のために山とは遠く離れた瓦斯(がす)(とう)が灯る都会で勉強しつつも、将来の悩みや不安に(さいな)まれ、そして懐かしい学校のことを思い出していることがわかります。この心情は現在でも、受験生や地元を離れて一人頑張る若者に共通するのではないでしょうか。

 この3通のはがきのうち、2通は差出人の本名ではなく、“K生”“受験生”と書かれています。信頼しあう友人同士であるからこそ、このような形での文通が行われたのかもしれません。小説の一節のような文体からも、“K”氏と平賀氏がどのように接していたかが想像できます。

 手紙は個人で大切に保管されることがある一方、亡くなると処分されてしまうこともあり歴史資料として認識されにくい存在です。しかし、その時代を生きた人の生の声を伝えてくれる歴史資料として貴重な存在といえます。このはがきからは、大正時代の受験生“K”氏が、現代の受験生と変わらない悩める若者であったことを教えてくれます。 


  写真①(請求記号E9501-92)

   写真②(請求記号E9501-93)

   写真③(請求記号E9501-94)