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生物学から考える「私たち」

 
第36回(平成28年度)
全国高校生読書体験記コンクール県入選
渡部 真帆さん(新潟県立新潟高等学校)

「生物の特徴とは何か。」生物の授業でこう問われ、私は生物の定義について教わった。細胞を基本単位とする、DNAをもつ、代謝を行うなどの生物の特徴を学んだ後で、ウィルスについても話を聞いた。ウィルスは細胞をもたず、自分自身では代謝も増殖もできないが、他の細胞内では増殖できる、生物とも無生物ともいえない存在だそうだ。では、一体何者なのだろうか。私の心に謎が渦巻き始めた頃、「生物と無生物のあいだ」という本に出会った。題名を見てハッとした。この本なら私の疑問を解決してくれるかもしれない。そんな期待と好奇心で、私はページをめくっていった。

新潟県立新潟高等学校


著者は福岡伸一さん。彼自身も海外や日本の有名大学の研究所に勤めた経験をもつ生物学者である。この本は、生物と無生物は何をもとに区別されるのか、すなわち、生命とは何かということについて考察し、その核心に迫っていく本である。考察するにあたり、ワトソンとクリック二人がDNA構造を解明するまでの物語などといった分子生物学の歴史や発展について、また、著者自身を含めたそれに関わった多くの生物学者のエピソードを比喩や例を用いた豊かな表現でつづっている。 

私にとっての謎であった「ウィルスとは何者なのか」という問いに対しては少ししか言及されていなかった。著者の見解は、「ウィルスを生物であるとは定義しない。」ということだそうだ。しかし、ウィルスが生物なのか無生物なのかという論争は、今でも生物学者たちの間でくり広げられており、決着はついていないという。 

自らの問いに明確な解答は得られなかったものの、私はこの本に出会えたことに満足している。なぜなら、私の価値観や現代社会の問題について見直すきっかけになったからだ。 

先に述べた「生命とは何か」という問いに対して、一般的には「自己複製できるもの」という定義がされているが、それだけでは説明できないという。筆者によると、生命とは二つの概念だそうだ。一つは、「動的平衡」。生命は、分子レベルで見ると分解と合成をくり返しているが、その流れの中でも、全体としては一定のバランスを保っているということだ。もう一つは、「時間」。生命は二度とやり直すことができない。その点で生命と機械は異なっている。 

私は、この「動的平衡」は人間社会と似ていると感じた。人間も、技術の進歩や新しい文化、考え方の誕生という時代の流れの中で、今までの慣習や歴史とバランスをとりながら生きている。しかし、大きな違いがあるとも感じた。生命は、たとえあるピースが欠落していたとしても、他の部分がうまく調節して埋めあわせることができる。欠損をカバーするための適応力と復元力がある。しかし、私たちの社会ではどうだろうか。何か不都合があった時にカバーしあい、助けあえるだろうか。いや、それ以前に助けあおうとしているだろうか。私は、友達が困っていた時に、忙しいからなどという言い訳をつけて何もしてあげられなかったことを思い出した。今考えると情けないことだ。それに、私の経験のようなものだけでなく、いじめや虐待などの大きな社会問題も「助けようとしない」ことが原因で解決しないのだと思う。誰かが行動すれば防げることだ。多くの人がその「誰か」になろうとしている社会でありたい。そのために、社会の現状を生命のあり方を含めた様々な視点から見つめていかなくてはならない。 

また、私はこの本の最後の方に書かれたある一文にも刺激を受けた。「結局、私たちが明らかにできたことは、生命を機械的に、操作的に扱うことの不可能性だったのである。」この一文は私の経験とリンクした。 

私はこの夏休み、尾瀬に研修に行った。尾瀬には、アヤメ平という場所が観光客によって荒廃した歴史があること、一方で、自然を守ろうとする人々がいること、その両方を知っていた。だから、よい意味でも悪い意味でも人間は自然を変えられ、自然より上に立っていると考えていた。ところが当日、雨が降り、私たちは雨の中を歩くことしかできなかった。結局、自然には敵わないのだ。そう痛感した。雨は生命とはいえないが、それを形づくる自然は生命であると考えれば、先ほどの一文と通じると思う。だから、私はこの一文に納得し、考えを深めることができた。そして、自然と共存はできるはずだから、その方法について考えるべきだと感じた。 

今回、「生命」という起点から様々なことを考えることができた。まだ学べることはあると思うし、それがよりよい世界につながることもあると思う。問題は多くあるけれど、できることは精一杯やろうと思う。これも「生命」から学んだ大切なこと。人間も、「二度とやり直すことができない」のだから。


 

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